「自分本位の見せかけの演技から、他者ありきの演技の真髄へ…」

 

演技は人間関係の芸術だと私は考えています。

演劇は「余暇を楽しむ」ものです。しかし、現代人(特に日本人)には「余暇」そのものが無くなってきています。そのため、テレビでも映画でも演劇でも、頭を使うものはどんどん減り、何も考えずに楽しめるものが増えました。時代の流れを考えると、これはやむを得ないことなのかもしれません。

しかし、より想像力を使わなくて観られるものを求めその結果、日本の俳優の質は堕ちるところまで堕ちてしまいました。


今、私たち日本人が「演技」と認識しているものは、観る側の想像力を必要としないもの、つまり誰が見ても「ああ、そういう感情なのね」と分かる感情(気持ち)の表現を指す言葉になっています。私は、そこに芸術性を見出だすことが出来なくなってしまいました。武術がスポーツ化してしまったのと近い感覚かもしれません。


私たちは日頃、社会生活を送りながら「感情を表現すること」を目的に行動することはなかなかありません。役者が感情を表現しようとした瞬間、演じる人物が本当にやろうとしていることとは全く違うことをやってしまっています。果たして、演技とはそんなに安っぽいものなのでしょうか?

演じる人物の目的を読み解いて、様々な角度から行動してみる…そのために稽古というものはあるのではないでしょうか?

感覚や感性だけを頼りに、何となく台本に沿って、台詞を覚えて、演出家に任せて動きを決められ、何となく演じるだけなら、稽古なんて2週間もあれば十分です。

これは演技の楽しさの第一段階。本当の演技は、これとは比べ物にならないほど深く、身震いするほど面白いものなのです!


繰り返しになりますが、日本の多くの俳優は、


感情(気持ち)をつくったり

それっぽい雰囲気を見せたり


することを「演技」と捉えています。

「日本の」とあえて書くのは、映画でも舞台でも、西欧の俳優たちの演技を観ると、どう見てもそんなことはやっていないからです。

なぜそうなったかは先述しましたが、もう一つ、俳優養成機関の罪は大きいと思っています。通った方なら分かると思いますが、必ずと言っていいほど、「もっと気持ちを込めて!」とか「感情を見せて!」とかとんでもないことを教える方がウヨウヨいらっしゃいます。そういう方に教わるので、「演技ってこういうものなのか」と何の疑問も持たずにおかしな訓練を積み重ねてしまうのです。



ここで、俳優の皆さんに問いますが……


「貴方が一生懸命感情(気持ち)を表現している間、目の前の他者(相手)はどうしているか考えたことがありますか?」


私がそれを

「自分本位の演技」

と呼ぶのはそういうことです。

先に書きましたが、俳優に限らず、一般的にも

「演技=気持ちをつくる」

というイメージをお持ちの方は圧倒的に多いです。 

多様性に富んだ日本の演劇業界で、それが良いか悪いかという狭い視点で考えるつもりはありませんが、「気持ちを表現して気持ちいいんだからそれでいいじゃん」という方はこのワークショップに来ても無意味なので、どうぞお引き取りください。


私は、演技の原点、他者ありきの演技がどれほど面白く奥深いものか一人でも多くの俳優、観客に知っていただくために、この東京演技研究所を起ち上げました。

「東京~」などと大層な名前を付けてしまいましたが、現段階では「東京都で開催しているだけ」という小規模なものです。

小規模なら小規模の良さを活かして、大手ワークショップではなかなか難しい


「敷居は低く、レベルは高く」


が私のワークショップのモットーです。

自身、まだまだ未熟な役者、演出家であることは自覚しています。なので偉そうなことを言うつもりはありません。参加された方には私がありとあらゆる角度で問いを投げかけ、俳優の皆さんの「気付き」を大切にやっておりますので、どうぞ身構えず、且つ恥をかくことを恐れず(これは俳優という職業の基本的な適性なので当たり前ですが…)、勇気を奮って参加してみてください!


きっと演技の本当の面白さに触れていただけると思います!!



東京演技研究所 主宰 藤波瞬平